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2004年03月29日

せんたくばばあ

[Man of Kind]
私が勤めていた店に、黄色いヤッケをきたばあさんがやってくるようになったのはいつからだっただろう。
そのばあさんは夜遅く店に来ては朝までずっと店にいた。

要は浮浪者である。その身なりから、我々はそのばあさんを「イエローばばあ」と呼んでいた。

そのばあさんは身なりは汚いが、とても品のいいばあさんだった。言葉遣いも丁寧な標準語で、方言訛りはまったくなかったので、私のいた地方の出身ではないだろう事は容易に推測できた。

ある日、そのばあさんがトイレに入ったまましばらく出てこないことがあった。歳も歳だったので、アルバイトの連中は、ばあさんがトイレで倒れているのではないかと心配し、トイレを覗いてみた。

そのアルバイトは、笑いながら私のところにやってきた。

「おやじまんさん、イエローばばあ、洗面所で洗濯してますよ~。ほかのお客さんがトイレにいけなくて困っているんですけど~」

「なに~、せんたくぅ~?」

私はそのばあさんにトイレから出てもらうよう、また、店内で洗濯等もってのほかであることを伝えに行った。

ばあさんは恐縮し、お願いだから出入り禁止だけは勘弁して欲しいと懇願してきた。私とてそこまでするつもりはなかったので、店内での洗濯だけはしないようにといって、その場を離れた。

その日から、イエローばばあは「せんたくばばあ」となった。

ある冬の夜、店から帰る途中で、道端でダンボールにくるまって寝ているせんたくばばあをみた。このばあさんは、何でこうなってしまったのだろうかと考えていたが、他人にはわからない事情があるのだろうと自分を納得させ家路についた。ばあさんには家族はいないのだろうか。この寒い中、体は大丈夫なのだろうか。苦々しい思いは拭い去ることが出来なかった。

あのばあさんは今どうしているのだろう。あの歳では、今はもう生きていまい。せめて施設にでも保護されていればいいなと思う。温かい布団の中で最後を迎えていればいいなと思う。道端で身元不明者になっていないことを祈るばかりである。

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posted by oyajiman at 2004年03月29日 23:18:12



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